③「改革はディテール(細部)にしか宿らない」:従業員エンゲージメント
これは作家の田中康夫氏が長野県知事の時代に浅田彰氏との対談で語った言葉です。当時、田中氏は「脱ダム宣言(2001年)」を政策として掲げて従来の公共事業の在り方を厳しく批判し、大きな議論を巻き起こしていました。また、県庁の入り口近くにガラス張りの知事執務室を設置したことで話題になっていました。
これに似た言葉で『神は細部に宿る』というのがあります。発祥は不明ですが、欧州の著名な芸術関係者や建築家の間でよく語られる言葉で、本当に素晴らしい作品は見た目でなく目につかない細部に素晴らしさの本質が潜んでいるという意味です。田中氏の言葉はこれをもじったものだろうと思います。
近年、「従業員エンゲージメントの向上」がよく話題になります。従業員エンゲージメントとは、企業と従業員の信頼関係を意味します。働きやすさ、やりがい、指針への共感が従業員エンゲージメントの主要ドライバー(影響要因)と言われていますが、トップダウンの方針や施策だけではなかなか改善しないことが知られています。それは、エンゲージメントが事業成果や評価や報酬といった目に見えるものではなく従業員の心の奥底にある感情であり、特に大きな組織においては個々のメンバーの身近な職場環境が組織全体に対する感情に極めて大きな影響を及ぼすためと言われています。
私自身も社長として従業員エンゲージメント向上に取り組みましたが、「すぐには向上しない」というのが実感です。リーダーがいかに素晴らしい組織ビジョンを語っても、メンバーにとってみれば自分の周囲の環境こそが肌で感じることができる会社の全てですから、なかなか「自分事」とはならないのです。
改革の浸透とは個々のメンバーの意識や行動様式の変容を意味しますが、そのためには改革が個々のメンバーにとって「自分事」として「腹落ち」するものである必要があります。改革方針に基づく諸々の施策は部署毎にブレイクダウンされて個人レベルのタスクに分解されてゆきますが、改革を担うのは人であることを考えると、改革を成功させ、それを持続させる力はリーダーのものではなく、個々のメンバーに宿るものなのです。
だからこそ、持続性のある改革はディテール(細部)にしか宿りえないのです。また、それには時間がかかります。辛抱強く取り組むことが必要です。