以下に紹介する理論はいずれも1960年代までに発表された古典的なものです。「欲求5段階説」「X理論・Y理論」「動機付け・衛生理論」は、人間は生きる価値を希求する(自己実現を目指す)ものであり、自発的な行動を促す動機付けが成果をもたらすという、今では当たり前と思われていることを「発見」したことに大きな価値があり、いまだ一定の価値を保っています。
「リーダーシップ類型論」「システム4理論」も同じく古典と言えます。これらを組織論ではなく動機付けの理論として分類したのは、議論の本質が組織の形態よりもリーダーと部下の人間関係にあると考えられるからです。
■欲求5段階説(アブラハム・マズロー)
人間の欲求には「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階があり、これら5つの欲求にはピラミッド状の序列があり、人間は自己実現に向かって、低次の欲求が満たされると、より高次の欲求をもつようになるという考え方です。マズローさんは晩年に「自己実現の欲求」の上に「自己超越の欲求」を加えたそうで、「自己実現」や「自己超越」まで到達できる人は極めて少ないのだそうです。
■X理論・Y理論(ダグラス・マクレガー)
マズローの欲求5段階説を踏襲して、人間観・動機づけにかかわる2つの対立的な考え方(下図)を示し、Y理論が望ましいと結論づけています。
■動機付け・衛生理論(フレデリック・ハーズバーグ)
満足の要因と不満の要因は別ものであり、不満を減らしても満足は増えないという考え方です。満足の要因は「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などで、「動機付け要因」とされました。不満は要因は「給与」「対人関係」「作業環境」「福利厚生」などで、「衛生要因」とされました。マズローの欲求5階層説との関係でいうと、「動機付け要因」は、「自己実現欲求」「承認欲求」および「社会的欲求」、「衛生要因」は「生理的欲求」「安全・安定欲求」と「社会的欲求」に対応しています(「社会的欲求」は動機付けと衛生の境界ということです)。
■リーダーシップの類型論(クルト・レビン)
リーダーシップのタイプを専制型、民主型、放任型の3つに分類し、民主型が最も有効であると結論付けています。
専制型:短期的には高い生産性を実現できるが、長期的にはメンバーが相互に反感や不信感を抱くようになり効果的ではない
民主型:短期的には専制型より生産性が低いが、長期的には高い生産性をあげる(友好的な雰囲気、団結度が高くなる)
放任型:組織のまとまりもなく、メンバーの士気も低く、仕事の量・質とも最も低い
■システム4理論(レンシス・リッカート)
組織をシステムとして捉え、独善的専制型(システム1)、温情的専制型(システム2)、相談型(システム3)、集団参画型(システム4)の 4つに分類し、集団参画型(システム4)を採用している組織の業績が最も高いと結論付けています。ただし、「高い目標設定を行う」という条件付きです。この条件をクリアするにはメンバー全員がリーダーと同等のビジネスに関する見識を持つこと、言い換えれば、リーダー不要の状態を実現することになります。気心の知れた小さな集団であれば(例えばベンチャー企業の立ち上げ期など)不可能ではないでしょうが、規模の大きな組織では現実的にはシステム3を目指すのが妥当であろうと思います。
最近、「ティール組織」という本がちょっと注目されたかと思います。「マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」というサブタイトルに期待も膨らんだのですが、筆者がティール組織と名付けた次世代型組織は「組織は社長や株主だけのものではなく組織に関わる全ての人のものであり、目的達成のために共鳴しながら行動をとる『生命体』・・・マネージャーやリーダーといった役割が存在せず、上司や部下といった概念もない」というものだそうです。上記のシステム4の枠を出るものとは言い難く、また、システム4に対する組織形態としての現実性に関する批判を乗り越えるものでもないように思いました。