マイケル・ポーターは現代において最も有名な経営学者でしょう。ポーターのSCP理論(Structure-Conduct-Performance)は、企業の行動の本質は「全く儲からない完全競争状態から最も儲かる独占を目指す戦い」であり、企業は自らが属する産業の中で自らをどのようにポジショニングするかによって業績の良し悪しが決まると説いています。そしてポジショニングを決めるツールが5フォース(5つの脅威:既存の競合、新規参入者、代替品、顧客、サプライヤーなどのパートナー)分析です。経営は「行き当たりバッタリ」「継続は力、とにかく改善」ではなく、意図的に筋道の通った戦略を立ててそれを実行することであり、企業の戦略は属する産業の構造、つまり外部環境に大きく依存するというのがポーターの主張です。
これに対してジェイ・バーニーはRBV(Resource-based
View)を提唱し、戦略の決定には企業内部の経営資源も重要だと主張しました。そして、経営資源を分析するツールとしてVRIOフレームワークを示しました。V-R-I-OはValue(経済的価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)の頭文字です。バーニーはポーターを全面否定しているわけではなく、一時は「どっちが正しいか」という議論もあったそうですが、「どっちも大事」で決着したようです。
ポーターとバーニーに共通しているのは「有効な戦略は意図的に作れる」ということですが、これに異を唱えたのがヘンリー・ミンツバーグです。ミンツバーグはホンダのオートバイ事業のアメリカでの成功の経緯などをもとにして、「どう頑張っても完璧な戦略なんていうものは作れない」「やっているうちに答が見つかるのが現実(戦略は意図的なものでなく創発的なもの)」「戦略よりも創発を起こす組織能力が大事」と主張し、ポーターやバーニーの意図的戦略に対して創発的戦略を提唱したのです。
ちなみにバーニーは自著「企業戦略論」という教科書(第6版まで重ねている「戦略の定番」です)でミンツバーグの創発的戦略を紹介して、これを認めています。また、この本ではSCP理論や5フォースについて、戦略策定にあたって外部環境の分析は不可欠であるとして丁寧に解説しています。
上の議論はこれで終わりではなく、有効な戦略の持続性という観点で新たな議論が展開されています。ポーターの説が比較的安定した環境を想定していたり、バーニーの説が持続性を強調してはいるものの、変化が激し過ぎる昨今の状況では競争優位の持続は非常に困難であり、持続的な競争優位ではなく、一時的な優位を連鎖させながら生き残りを図ってゆくことこそが重要なのだという主張が提起され、「企業が変わり続ける力」を探究するダイナミック・ケイパビリティ理論として研究が進められてます。