<目次>
■ WHY(なぜ=大義)をつくる
■ WHAT(何をどうする)をつくる: 戦略は「問い」
■環境分析
■戦略の基本的な型、ビジネスモデル、非競争戦略
■「戦略」から「生略」へ(企業の新たな姿についての試論)
■戦略の有効性・戦略策定プロセスの有効性
■戦略作りの手順、論理と直感、創作と飛躍
■戦略(ビジネスモデル)作りのツール:ビジネスモデル・キャンバス
■利益は条件である
■ HOW(どうやって)をつくる: 詳細計画、バクアップ・プラン、BCP(事業継続計画)
「計画化」はWHY(大義=なぜ)・WHAT(目標=何をどうする)・HOW(計画=どうやって)で成り立っています。
■ WHY(なぜ=大義)をつくる
まず、 WHY(なぜ=大義)をつくるとは意義・使命、目指す姿などの大義を掲げることです。意義・使命をミッション、目指す姿をビジョンと呼ぶのが一般的です。ミッションの代わりにパーパスや理念という言葉を使うこともあります。ミッションとパーパスの違いは、ミッションが「こうありたい」型でパーパスが「こうしたい」型とも言われていますが、まあ、あまり気にすることもないと思います。「ミッションとビジョン」、「パーパスとビジョン」、あるいは「理念とビジョン」という風に組み合わせて使うことも多いようですね。
「大義」はチーム内の共通の価値観と士気の源泉となり、周囲の共感と応援のを引きつけるアイコンとなります。したがって、「組織化」や「動機付け」にも大きな影響を及ぼします。『感情は行動につながるが、理性は結論しか生み出さない』(『成功のルールが変わる』:リッデルストラレ &ノードストレム著)という言葉が示すように、人々に共感を生み出し、行動に駆り立てる「大義」を掲げることはとても重要です。
上位組織のミッションやビジョンがすでに定められている場合、それらとの整合性・親和性のある大義を掲げるのが一般的です。活動のユニークな側面を強調したい時や既存事業と異質のものを立ち上げようとするときはあえて上位概念に反する大義を掲げることも考えられます。
「大義」は必ずしも社会善を謳うものである必要はありません。例えば冒険心や文化創造などを組織の存在意義とする場合、それが社会善という観点で中立的なものであっても構わないのです(もちろん、明確に反社会的なものであってはなりませんが)。社会善にこだわり過ぎてビジネスとして何を目指しているのかがぼやけてしまったり、矛盾や嘘を掲げることは避けねばなりません。
また、「大義を掲げる」を計画化の冒頭に位置付けていますが、必ずしも最初に大義を掲げる必要もありません。「後付け」でも構わないのです。事業を進める中で大義が見えてくるということもあるでしょうし、組織の規模が大きくなってきたときにメンバーの意識合わせのために言語化するということでもよいと思います。
■ WHAT(何をどうする)をつくる: 戦略は「問い」
次にWHAT(何をどうする)の策定ですが、目標は大義に沿ったもの、具体性と価値のあるもの、チームの能力と時間軸に照らして実現可能なものであることが求められます。目標が大義から外れるものであったり、目標達成によって実現される価値が曖昧であったり魅力に欠けるものであったり、目標が実現できそうもないものであったりすると、活動への支持を得ることはできません。もちろん、一見不可能に見えても、やりようによって実現可能であったり、可能性は低いが成功すると価値が大きいということを了解の上で難度の高い目標設定をすることはあるでしょう。
右の図は経営戦略の教科書によく出てくる「戦略策定のプロセス」と呼ばれるものです。 「大義(ミッション、ビジョン)に基づき、目標を定め、環境を分析し、最適な戦略の型を選択する」という流れになっています。
けれども、よくよく考えてみると、「ビジネス環境や具体的な方法論である戦略を勘案せずに、有効かつ実現可能な目標が決められるのか?」「いったん目標を決めても、その後のビジネス環境分析や戦略作成で行き詰まったら目標も変わってくるのでは?」といった素朴な疑問に突き当たります。
また、ミッションやビジョンにも事業環境が影響しないとも言えませんし、ミッションやビジョンを先に決めないといけないのかというと、私自身、事業を担当して1年ぐらい経過してからようやくビジョンを定めたという経験もあります。
昨今は環境変化が激しく、先行きを見通すことも難しいことを勘案すると、「大義→目標→環境分析→戦略」という一方通行のプロセスではなく、各要素は相互に複雑に影響しながら絶えず変化を繰り返すものと考えるべきだと思います。大義も目標も戦略も「答」ではなく終わりのない「問い」であり、ビジネス環境との対話の中で「問い続ける」「答を求め続ける」ものと私は考えます。
右図は「環境との対話」と「問い続ける」を考慮して「戦略策定のプロセス」を描き直したものです。
大義、目標、戦略をコロコロ変えるべきだと主張しているのではありません。環境変化の中にあっても、できる限り長持ちする大義、目標、戦略を作る努力は
たいへんに重要だと思います。
P.F.ドラッカーは「重要なことは,正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。」と言っています。
なお、右図では「目標」と「手段の選択」をひとくくりにして「戦略」と表記しています。これについて異論はあるかもしれませんが、この考房では「WHAT(なにをどうする)=戦略」、ちょっと畏まった言い方をしますと、「戦略とは目標とそれを実現する手段の概要」と定義します。「手段の概要」と言っているのは、計画を詳細化してタスクをブレイクダウンしてゆく「HOW(どうやって)」と区別するためです。そして、 「HOW(どうやって)を「詳細の計画=戦術」と呼ぶことにします。
■環境分析
「より現実的なプロセス」の図を再度、よく見ると「環境の分析」がプロセス全体に渡って常に大きく影響することがわかります。生物の生存・進化・淘汰が環境に大きく依存するように、ビジネスにおいても環境を知り、適応することは「生き残り」の必須条件です。
環境分析の手法として、企業の外と内の2つに分ける、もしくは、①世の中の大きなトレンド(マクロ環境)②ビジネスを取り巻く周辺環境(ビジネスの生態系)③企業内・組織内の環境の3つに分けるのが一般的です。環境分析にはいくつかの有名かつ有用なツールがあります(詳しくは下記のリンク・ページを参照ください)。
マクロ環境、周辺環境、内部環境は繋がっており、日々の環境変化は常に何かしらのビジネス影響を生みます。「さて戦略をつくるぞ!」という時だけツールを取り出してきて穴埋め作業をするのではなく、日々の環境変化がビジネスにどういう影響を与えそうかを常に考える癖をつけておくことが大事です。
情報感度を研ぎ澄まし環境因子のビジネス影響を瞬時に推論するスキルは日々のトレーニング次第です。また、日頃からそういう蓄積ができていれば「さて戦略をつくるぞ!」という時にパパッと環境分析を仕上げることができます。戦略のクオリティが環境分析のクオリティに大きく依存するのは言うまでもありません。
「これだけ知っていればなんとかなる」計画化の理論とツール ①:環境分析
■戦略の基本的な型、ビジネスモデル、非競争戦略
戦略をあまり難しく考える必要はありません。基本的な型は どうやって成長するか(成長戦略)、どうやって競争に勝つか(競争戦略)、どうやって逃げるか(撤退戦略)の3つしかありません。下記のリンク・ページに主要な「戦略の基本的な型」を列挙し、簡単な解説をしますが、おそらくは馴染みのあるものが多いだろうと思います。
「これだけ知っていればなんとかなる」計画化の理論とツール ②:主要な「戦略の型」
従来の戦略論の根底には、同質的な競合環境の中で熾烈な生存競争が繰り広げられる(1つの業界を構成する企業は皆、同じような機能群とプロセスを持って、しのぎを削っている)という世界観があります。
これに対して、近年、企業活動をバリューチェーン(企業間の機能分業の連鎖が経済価値を生み出す構造)と捉えて、どういうビジネスモデル(バリューチェーンのどの領域にフォーカスして、どのように価値と収益を生み出すか)を構築するかという非同質的な戦略アプローチが広がってきています。正面から戦うのでも側面から戦うのでも、あるいは逃げるのでもなく、戦いの土台(あるいは土俵)を変えてしまうという考え方です。
また、近年、環境変化が激しく予測不能な中で、従来の成長・競争戦略だけでは対応し切れないないとして、
・「無闇に戦いを仕掛けない戦略」(ゲーム理論)
・「競争力強化への継続的な努力が環境変化への適応を阻害する現象」(イノベーションのジレンマ)
・「競争を回避する戦略」(ブルーオーシャン戦略)
・「不確実性に対処する戦略」(リアル・オプション)
などが提起され、活発に議論されるようになってきています。
また、取引費用理論(TCE)は、企業が外注している機能を体内に取り込みながら巨大化してゆくメリットを説明してきましたが、IT通信革命などによって内部化の経済メリットがなくなってくると、この先、企業の小型化が始まると予言しています。 「 20世紀は大企業の時代」とも言われますが果たしてこの先、企業がどういう姿に変化してゆくかは非常に興味深いテーマだと思います。
「これだけ知っていればなんとかなる」計画化の理論とツール ④:新たな潮流
■「戦略」から「生略」へ(企業の新たな姿についての試論)
生物界での「生存戦略」というのを考えてみると、「戦う」「勝つ」が基本というよりも、「身を隠す」「無闇に戦わない」が基本であったり、「多産多死」を前提とした行動パターン、「群れ」のルール、さらには、「進化の袋小路(過剰な進化が絶滅を招く)」といった現象もあります。
従来の企業観が「企業=競争と勝利をひたすら求める戦闘マシン」という捉え方だったとすれば、最近は「企業=環境変化を生き延びる生き物」という捉え方が取り入れられつつあるとも言えます。そうなってくると、企業が追い求めるものも「競争優位」といった尖った無機質な感じのものから「しなやかさ」のような有機的なものに変わってくるのかもしれませんし、それは「戦略」というより「生略」とでも呼ぶのがふさわしいかもしれません。
現時点で私がぼんやりと考えていることを無理やりまとめてみると以下のような対比になります。
現代資本主義の体制は、専制からの解放に始まる人類進歩の歴史的産物と言えます。自由な競争は人類に様々な便益をもたらした一方で持続可能性を脅かす危険性も孕んでいます。ビジネスの在り方も今後、よりよい世界を目指す力によって変容してゆくものと思います。
まだまだ粗っぽく夢のような内容ですが、今後の「考房」の最重要探究テーマと考えています。
※1 企業の寿命に関しては、従来の「永続企業(Going concern)」という考え方から、社会の共生ネットワーク
上に必要な時に出現して役目が終わったら消えるというイメージで「終わりがある」と記述してみました。
1950年から2009年の60年間にアメリカで創業した企業2,9000社のうち78%が死滅しており、創業から10年生存
する企業は半分程度、30年生存する企業は5%に満たないという衝撃的な調査結果もあります。(『スケール
生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』 ジェフリー・ウェスト著・・・著者は複雑系の研究で有名なサンタ
フェ研究所の元所長を務めた物理学者です)
■戦略の有効性・戦略策定プロセスの有効性
「環境分析→戦略の選択」という作業を研修やワークショップなどで経験したことのある方の中には、「ホントにこのやり方で有効な戦略が作れるのか?」「この順番でないといけないのか?」といった疑問を持った方も少なくないのではないかと思います。
戦略が競争優位を生み出したとしても長続きしなかったり、戦略を実行するうちに、ひょんなことから違った答がみつかることもあります。前者は「持続的競争優位ではなく一時的競争優位の連鎖」という議論として、後者は「意図的戦略ではなく創発的戦略」という議論として研究者の間ではよく知られています(詳しく知りたい方は下記のリンク・ページを参照ください)。
戦略が限られた知識や情報を元につくられる限り完璧ではありえませんし、戦略の前提である環境条件が激しく変化する昨今の状況においては戦略の賞味期限を保証するものは何もありません。他方、ビジネスがいかに不確実性とリスクに満ち溢れているとしてもビジネスはギャンブルではありません。
説明責任(アカウンタビリティ)を求める利害関係者(ステーク・ホルダーズ:株主・従業員・顧客・取引先)にとって、戦略策定プロセスは戦略の妥当性・納得性を測る「物差し」ともいえるものなので、「一生懸命作ってもどうせ変わっちゃうだろうから」と言って一連の分析や検証を軽んじるべきではないと思います。「戦略の持続性がそんなに長くなかったり、途中で変更されるとしても、戦略策定プロセスは有効」ということです。
その一方で、つくった戦略を過信せずに状況に応じて修正する感度・柔軟性・機動性が大切ですし、その重要性は増してきていると言えます。
■戦略作りの手順、論理と直感、創作と飛躍
戦略作りの手順について、実は私自身、戦略のアイデアがまず頭にフワッと浮かんで、それをあとから分析ツールで検証・理論武装するという「逆パターン」※1を実践している「直感・ひらめき」派です。
「頭にフワッと浮かぶ」のには2つの理由があると考えています。1つは、私が日々、環境分析のフィルターを通して世の中や身の回りを観察する癖がついていて、年がら年中、「環境⇔戦略」の小さな思考実験を繰り返しているということです。そして、もう1つの理由は私が「アナロジー(類推)」を大事にしていることです。
アナロジーとは全く別の領域の2つの事象に似通ったパターンを見出すことです。つまり、自然科学、歴史上の事件、スポーツなどからビジネスに役立つ構造・プロセスのパターンを推論するということです。以下に私がよく使うアナロジーの題材を挙げます。
・兵法書(孫子、クラウセビッツ、チェ・ゲバラ・・・)、歴史に残る戦争や戦闘
・生物界の生存競争・進化・淘汰、複雑系サイエンス
・組織を人体に喩えて考えてみる(頭脳、骨格、神経、血流・・・)
・事業再生を医療に喩えて考えてみる(手術、自然治癒、リハビリ・・・)
・スポーツ(フォーメーション、トレーニング、マインドセット・・・)
・異業種のバリューチェーンやビジネスモデルの事例
「分析→戦略」にしても「戦略→分析(検証)」にしても、「分析」と「戦略」の間にはある種の飛躍があると思います。「分析」が「課題」を浮き彫りにしてくれるとしても、「課題」に対して「解決策」である「戦略」は自動的に導かれるものでなく、前述の「戦略の型」や「アナロジー」などを参考にしながら「創作」するものと私は考えています。いくつかの「戦略の型」を組み合わせるとしても、うまく組み合わせること自体が創作であり飛躍です。
では、この「創作」「飛躍」は一体どういうプロセスなのか?何か有用なサポート・ツールはないのか?
私は今のところ、この問いへの明確な答を持っていません。人それぞれに自らの知見を活かして上手に「創作」「飛躍」しているように見えますが、これが上手くできてしまう人間の思考の仕組みと、それを戦略プロセスにどのように有効に活かせるかは今後の「マネジメント探究」のテーマの1つと考えています。
とは言え、「よく分からないので、あとは、それぞれ頑張って跳んでみてくだい」ではあまりに無責任な気がしますので、「論理的飛躍」に役立ちそうなツールを1つ紹介しておきます。
それは前述のブルーオーシャン戦略で提唱されているERRCグリッドというツールです。これは、既存の商品やサービスに「取り除く(Eliminate)」「減らす(Reduce)」「増やす(Raise)」「創造する(Create)」という4つの変形を試みることによって「今までにないもの」をひねり出すというものです。商品やサービスの創造だけでなく、プロセス改革などにも応用可能だと思います。
ERRCに似たものでECRS、SCAMPERといったものもありますので下記のリンク・ページで紹介します。
※1 正直にお話しますと、私の場合、戦略セミナーなどで紹介されるSWOT分析やクロスSWOT分析を使った戦略
の抽出というのは概念としては分かるのですが、実際にこれらを使おうと思っても列挙する要素が多すぎて
収拾がつかなくなってしまうのです。「フレーム問題」と言われる有名な議論では、そもそも人間は無限の
要素の中で「なんとなく」取捨選択することで「無限の可能性検討」を脱して思考を進めることができると
言われています(機械にはそれができないのでAIにとって「フレーム問題」をどう解決するかが大きな難題と
して立ち塞がっていると言われています)。「なんとなく」には「おそらくは結論はこうだろう」という推論
が働いていて、それをもとに要素の取捨選択が行われるとしたら、実は分析という行為は本来「後付け」なの
ではないかと思えるのです。
これはあくまでも私見であり、「分析→戦略」という手順を否定するものではありません。また、SWOTや
クロスSWOTは戦略を説明する際に強力なツールとして役立つことに異論は全くありません。なお、「フレー
ム問題」に興味がある方はネットで検索すると、分かりやすい解説がすぐに多数見つかりますよ。
■戦略(ビジネスモデル)作りのツール:ビジネスモデル・キャンバス
「戦略を作る」「ビジネスモデルを作る」といったときに、何をどう作ればよいのか?
ビジネスモデル・キャンバスは「だいたいこんなことを考えればよい」というガイダンスとして、とても便利なツールです。また、このツールは世界中で広く使われていますので標準的なフォーマットとも言えます。
右図がビジネスモデル・キャンバスです。ビジネスモデルの全要素を9つの箱に分けて組み合わせた構造をしており、真ん中の「顧客に提供する価値」を挟んで左側が企業サイド、右側が顧客サイドという形をしています。
「顧客に提供する価値」は事業戦略のコアにあたる部分で商品やサービスの内容になります。そして図の左側は商品やサービスを作り上げるための研究開発やその他のオペレーション(=主要な事業活動)、それを支える企業内の経営資源の充足、社外パートナーとの協業が配置されています。図の右側はマーケティング関連の一連の活動になります。ターゲットとなる顧客セグメントを特定し、どうやって関係構築・維持をするか、価値提供の経路をどうやって確保するかという項目になります。
そして、下に配置された2つの箱が収益(売上)をどういう形で稼ぐかとコスト構造をどうするかで、その収支が利益となるわけです。
全くの新規事業の場合は全てをゼロから作りあげることになりますが、既存事業の場合は事業戦略に基づいて販売、開発・設計、製造、調達等の専門機能組織が中心となってそれぞれの箱について個々の機能に関する戦略を検討することになります。
■利益は条件である
ビジネスの目標として「利益率〇〇%達成」といった数字を掲げることが多いと思います。
赤字の事業を黒字にしようというのは理解できますが、「〇〇%」という数字にどんな意味があるのかが明確でないままに「利益極大化!」「いま利益7%だから10%を目指そう(数字としてキリがいいから?)」「二桁利益は優良事業っぽいから」・・・いったい利益はどれくらい必要なのかという考察がすっぽり抜け落ちたままに目先の利益を少しでも上げることに血眼になる・・・。
P.F.ドラッカーは利益について次のように述べています。
“ 利益計画の作成は必要である。しかしそれは無意味な常套語となっている利益の極大化についての計画
ではなく、利益の必要額についての計画でなければならない。その必要額は多くの企業が実際にあげて
いる額はもちろん、目標としている額をも大きく上回る。利益とは企業存続の条件である。“
アマゾンはビジネスを急成長させながらも殆ど利益を出さないことで有名ですが、創始者のジェフ・ベソスは次のように述べています。
“ 利益は出ていません。出そうと思えば出せますけどね。利益を出すのは簡単です。同時に愚かなことでも
あります。我々は今、利益になったはずのものを事業の未来に再投資しているのです。アマゾンで今利益
を出すというのは、文字通り最悪の経営判断だと言えます。”
企業の時価総額(=株主企業価値)は企業が将来生み出す収益への期待を反映したもので、従来は過去の財務業績を元に評価されるのが一般的でしたが、近年は、激しい環境変化の中で生き残る力に評価の中心が移ってきています。現状の経営の健全性だけでなく、生き残りのためのユニークな資産(技術や顧客)の蓄積や積極的な投資、持続可能性(サステイナビリティ)を示すことが要求されており、単に「利益が出ています」「改善しています」では利害関係者(ステークホルダーズ)の支持を得ることはできなくなってきているのです。
■ HOW(どうやって)をつくる: 詳細計画、バクアップ・プラン、BCP(事業継続計画)
戦略ができたら、次はそれを実現するための具体的な活動に翻訳・分解(ブレイクダウン)します。詳細計画は複数階層の樹形構造になります。
右図はイシュー・ツリーあるいはロジック・ツリー、KPIツリーと呼ばれるものです。詳細計画の樹形構造を可視化することによってマネジメントの網羅性と、各要素がどのように戦略目標に貢献するかを明確化できます。ブレイクダウンされた各要素をKFS(Key Factor for Success)、それらの定量的な評価指標をKPI(Key Performance Indicator)と呼びます。
既存の組織に新たな全体戦略を持ち込む場合には、個々の部署が従来のやり方を踏襲した行動計画に固執することが少なからずあります。そのまま放置すると、全体戦略と個別戦略の整合が取れない状態が続き、結果として新たな戦略の実行は進まなくなります。リーダーは各部署と辛抱強く議論を重ね、全体戦略と整合の取れた個別戦略となるまで安易に妥協しないことが求められます。
バックアップ・プラン(コンティンジェンシー・プランとかプランBと呼ばれることもあります)は、計画がうまくゆかない場合に備えてあらかじめ準備しておく代替プランです。代替プランがあればリスクの高い目標に思い切ってチャレンジできますし、致命的なダメージを回避できます。リスクの高い計画を実行するときは常に代替案への乗り換えが可能な最終地点( “point of no return” )を意識しながら進めることが重要です。
登山では、不測の天候悪化やアクシデントの際に途中で下山できるルート(エスケープ・ルート)をあらかじめ確認します。また、北京オリンピックの女子カーリングの試合で日本チームは全ての投球の前にチーム全員が「プランB」を確認し合って、投球ミスや氷の状態による軌道変化に対してプランの切り替えを瞬時に実行するというのを何度もやっていたのには大いに共感を覚えました。
自然災害、パンデミック、地域紛争などが発生した場合に自社のみならず社会インフラやパートナー企業が大きなダメージを被ることになります。起きうる事態への備えと、発生時にどのように事業を再開してゆくかの計画がBCP(Business Continuity Plan 事業継続計画)です。具体的には社屋や設備類の耐震(あるいは耐水)補強工事、業務の優先順位付け、 取引先の分散、対応プロセスや連絡ルートの整備、訓練などが含まれます。
社屋や設備をどんなに補強しても周辺の社会インフラやパートナー企業が機能しなくなれば影響が長期間に渡ることは避けられません。すべてを守ろうとせず、事業が回復不能なダメージを被らないには最低限、どこをどう守るかの優先順位を熟慮して計画を作成することが大事です。