<目次>
■進捗管理
■業績評価
■コンプライアンス
マネジメント・プロセスの最後が「統制」(Control)です。
■進捗管理
「計画化」フェーズで目標設定と活動の詳細化(ブレイクダウン)が行われ、それが「組織化」フェーズで組織内の各部署に割り振られます。ブレイクダウンされた各要素をKFS(Key Factor for Success)、それらの定量的な評価指標をKPI(Key Performance Indicator)と呼ぶことは「計画化」のパートで解説した通りです。
進捗管理とは・・・進捗確認の頻度を決めて、会議を招集する・・・会議が始まると各部署からKPI達成状況が順々に報告される・・・きれいにまとめられた資料(前日の夜中までかかってまとめられた?)を各発表者が淀みなく説明する・・・各部署も個々のメンバーも十分に「動機付け」られていてチームの士気は高い・・・そして、会議の最後にあなたはリーダーとしてのコメントを述べて会議は終了する・・・
どこでも普通に見られそうな光景ですし、「何が悪いの?」と思われるかもしれません。
リーダーにとって「進捗管理」の視線は過去に向けられるのか、それとも未来に向けられるのか?もちろん、過去を振り返り、過去から学ぶことは重要でしょう。けれども、起きてしまったことは変えられませんし、環境は刻々と変化します。リーダーがチームの「先導者」であるなら、「進捗管理」はこれから先の「打ち手」を見定め、チームに「先手」を促すものであるべきと私は思います。
まず、進捗確認の形式がどうあれ、進捗確認の場でリーダーが留意すべきポイントは以下の通りです。
1. 仮説をもって聞く
リーダーには日頃から様々な情報ソースを通じて業績や活動状況に関する情報が入ってきます。報告を聞
く時にはこうした事前情報を組み合わせて、「きっとこうなっているはず」という仮説を持って聞くこ
とで、立てた仮説と報告の差異から課題をあぶり出すことができます。
2. 予測は当たらない
状況がいいときには「楽勝です(もっとできます)」とはなかなか言いませんし、悪い時には「がんば
ります(あきらめません)」という内容の報告になります。人は仕事を増やしたくないし、怒られたく
ないものです。そういう感情が数字になって積み上げられるのが「予測」ですから、当たるわけがあり
ません。数字に秘められたバイアスを読み解き、チャンスとリスクを認識するのがリーダーです。
3. 問題は隠れている
隠すつもりはなくても課題は隠れていることが多いのです。報告資料を隅から隅まで注意深く見ると
「あれっ、おかしいな」と気づくことが多々あるはずです。数字は嘘をつきませんし、担当当事者に
は見えにくい課題というのもあります。報告資料の「説明されない部分」に目を凝らすのです。また、
「仮説を持って聞く」ことができていれば、自然と課題が隠れていそうな部分に目がとまるようにな
ってきます。
4. チームに求めることは言い続ける
課題を指摘してもすぐに行動が起きるとは限りません。「しばらくすれば忘れてくれる」と思われて
いるかもしれませんし、担当者に丸投げしたままになっているかもしれませんし、すぐにやってみた
けれどもうまくゆかず、そのまま放置されているかもしれません。求める方向に進んでいると実感で
きるまで言い続けることが大事です。言われる方も何度も言われたくないものですから、そのうち、
1回言えばすぐにやってくれるようになります。
難度の高い課題への取り組みでは日々、様々な問題が発生します。チームが次々に起きる問題への対応に追われ続けると、現場も進捗確認の場もトラブル・シューティング一色になってしまうことがあります。「原因の徹底究明」「恒久的な対策」「再発防止」「リスク再点検」・・・確かに重要ではありますが、チーム全体が「目先の問題」「言われたことをやる」「失敗しない」に集中してゆくと、チームは「後手を踏む」悪循環に陥ります。
リーダーはトラブル・シューティングだけに意識を集中するのでなく、悪循環を断ち切り「先手を取る」サイクルにもってゆくべく、「先手を取る」ことを意識したパワー配分とチーム全体の意識づけが求められます。
■業績評価
業績評価は様々なKPIsの達成度を重要度に応じて加重平均し、総合的な達成度を算定するのが一般的です。また、KPIsは全社・部・課といった組織階層毎に分類され、役職によって重み付けに変化を持たせるなどの工夫がされている場合も多いようです(例えば部長と課長では、部長の方が全社KPIsの重み付けが大きいなど)。
KPIsには定量的なものと定性的なものがあり、定量的なものは殆ど議論の余地はないのですが、定性的なものは評価者と被評価者の評価に差が出ることがあります。業績評価プロセスとして、被評価者が自己申告を行い、それを評価者がレビューし、話し合いをおこなって最終決定するというパターンが多いと思いますが、特に評価者の評価バイアスには留意が必要です。
大きな組織では階層毎に上司と部下の間で面談が行われ、人事部が全体のプロセスを運営し、評価者の教育も定期的に行われることが多いと思いますので、リーダー自らが評価システムの構築や運営にかかわるというよりも、適正な評価が行われているかを確認するプロセスを持つことが重要です。
KPIs評価が適正に行われることは必要条件ですが、継続的な「動機付け」には、賞賛・感謝・期待を形にしてしっかり伝える(=「褒める」)ことも同じくらい重要だと私は思います。
「形にして伝える」は、具体的に以下のようなことが考えられます。
・目覚ましい成果を上げた活動の表彰
・メンバーの慰労(慰労会の開催、ボーナスの特別加算)
・リーダーからのメッセージ
不満や怒りは苦もなく伝わりますが、賞賛・感謝・期待は「しっかり」伝えないと伝わりません。 「褒める」のが苦手という人もいるかと思いますが、生来の性格がどうあれ、舞台でリーダーという「配役」を与えられ、それを「演じ切る」のがリーダーの仕事です(私も得意ではありませんでしたが、何度もやっているうちにそれなりに上達するものです)。
■コンプライアンス
コンプライアンスは一般的に「法令遵守」と訳されます。法令に背く行動は処罰と社会的信用の失墜という甚大なダメージをもたらすことから、コンプライアンス管理は専門家の適切な関与の下で極めて厳格に行われれるべきものです。コンプライアンス管理のポイントは以下の3点です。
・事業に関連する法令すべての内容(新規法令・法令改正を含めて)が正確に把握・理解されていること
・法令遵守の仕組みが適切に構築され、運用されていること
・法令遵守の社員教育が適切に行われ、社員に浸透していること
産業ごとに固有の法令(例えば医療、食品、クルマの安全性など)があり、法令遵守の仕組みや社員教育も多様です。既存事業においては法令遵守体制の維持だけでなく、法令改正や新規法令への対応を速やかに実施することが求められますし、新規事業参入の際には関連法規の洗い出しからのスタートとなります。
リーダーは自組織の活動に関連する法令全てが正確に把握・理解され、法令遵守の仕組みが適切に構築・運用され、社員に正しく浸透していることを確認する必要があります。
コンプライアンスに関して、「法規さえ守ればいいのか?」「社会規範や道徳も含めるべきではないか?」といった議論があり、最近は社会規範や道徳を含むという考え方が優勢なようです。コンプライアンスの拡大解釈の背景には、近年、ダイバーシティ促進やSDGsへの取り組みなくして企業価値を高めることができなくなってきたことがあるとも言われています。
では、「ダイバーシティ促進やSDGsに取り組んでも企業価値が上がらないとしたら、やっぱり法規さえ守ればいいのか?」という問いにどう答えるのでしょうか?また、堅固なコンプライアンス体制を持っていると思われる名門企業の違法行為が大きく報道され、びっくりさせられることもありますが、いったいなぜ、そんなことが起きるのでしょうか?
私は、より本質的な問いは「そもそも企業は法規スレスレで勝負するべきものなのか?」ということで、ダイバーシティやSDGsや企業価値の問題ではないと考えています。
法規が「法による支配」を体現するものとして市民社会成立の土台であることに異論はありませんが、「やってはいけないこと」の約束だけで市民社会が成立するものではなく、道徳・倫理という、より高次の規範なくして市民社会の健全な維持・発展はありえないと思います。さらに、ビジネスが市民社会の中で高度の相互信頼関係に基づいて社会にとって有益な価値を生み出す活動であることを考えると、ビジネスには一般的な道徳・倫理よりも一層高い規範(商道徳とでもいうべきもの)が求められるべきではないでしょうか?
「法規スレスレの勝負」は一歩間違うと一線を越える危険を孕んだものです。法規スレスレではなく、もっと高い行動規範で自らを律する意識づけこそが社員教育の柱となるべきではないかと私は思います。